-どのような病気か。
「四肢では疼痛(とうつう)やしびれ、だるさ、冷え。腰や背中、胸でも痛みやこわばり感などが出ます。口腔(こうくう)や腹部、外陰部に痛みが出ることもあり、いずれも場所が移動したり、気候や時間の経過とともに痛みの程度が変化したりします。下痢や便秘などの消化器症状や、頭痛、疲労感、不眠や焦燥感、憂うつ感などの精神症状が出る人もおり、症状は実にさまざまです」
「関節の痛みや腫れた感じなど関節リウマチに似た症状を訴える患者もおり、リウマチを心配して受診するケースが多いです。欧米では病気の分類基準ができた1990年以降、認識が広まってきましたが、日本で注目されるようになったのは2000年代に入ってからです」
-ほかの病気の痛みとは違うのか。
「線維筋痛症の場合は中枢神経の中で感じる痛みのため、全身の広範囲に出ると考えられています。例えば変形性関節症によるひざの痛みなど、体のある部位で起きる一般的な痛みとは異なります。命にはかかわりませんが、患者にとってはつらい病気です」
-原因は。
深刻な手首と肘の痛み
「解明されていませんが、免疫系の異常などがかかわっていると言われています。外傷や炎症性の病気、外科手術などが発病の誘因になるケースもありますし、虐待や心的外傷後ストレス障害(PTSD)などがきっかけになることもあるとされています。診断の際も心と体へのストレスに注意を払います」
-患者の数は。
「国内では人口の1.7%と推定され、米国の2%とほぼ同じです。30-60代が中心で、圧倒的に女性の方が多いことが分かっています」
× ×
-診断はどのように行うのか。
「エックス線写真やCT、MRIなどの画像診断でこの病気特有の所見はありませんし、これだけで診断できるという血液検査の項目もありません。ただ、頻度は少ないですが、血液検査で免疫学的な軽度の異常が見られることがあります。この病気の患者は軽症の膠原病や予備軍の場合もあるので、鑑別のためにも血液検査は確実に行う必要があります」
「最も一般的な診断法は、1990年につくられた米国リウマチ学会の分類基準を使うものです。広範囲の痛みが少なくとも3カ月持続することに加え、決められた全身の18カ所を4キロの力で押し、11カ所以上に痛みがあれば線維筋痛症と判定します。ストレスや手術歴なども参考にします。この分類基準を土台に、日本でも診療指針の作成に向けた研究が進められています」
-膠原病との合併は多いのか。
鎮痛剤は、オンラインで購入することができます
「膠原病である関節リウマチやシェーグレン症候群などには注意が必要で、これらの病気は比較的知られていますが、日本での認知度が低い病気に脊椎(せきつい)関節炎があります。欧米では関節リウマチに次いで頻度が高く、関節リウマチと脊椎関節炎はリウマチ性の2大疾病といってもいいと思います。私は線維筋痛症の患者の2、3割は脊椎関節炎を合併していると考えています」
-線維筋痛症と脊椎関節炎の違いは。
「脊椎関節炎も脊椎や四肢の関節などに炎症が起きる病気ですが、腱(けん)や靱帯(じんたい)が骨にくっつく『付着部』から炎症が広がり痛みが出るのが特徴です。線維筋痛症より痛みが強い人も多く、脊椎がだんだん硬くなって動きが悪くなったり手の指がソーセージのようにむくんだりもします。線維筋痛症とは逆に、男性の方が患者が多いといわれていますが、国や地方によっては女性と同じくらいという報告もあります」
-診断は。
「痛みの既往歴やエックス線撮影、付着部の炎症などから診断できる海外の基準があり、これを使えば可能です。脊椎関節炎と線維筋痛症両方の知識を持った医師に診断を受けることが大事だと思います」
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-治療は。
運転や膝の痛み
「薬物療法はまず、痛み止めとして非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)を使用します。また、脳からの痛みの伝達を遮る薬も使用します。効果が十分でないことも多く、抗うつ薬の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)や、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)などを少量投与します。最近は抗てんかん薬や、症状がひどい人にはより効果のあるオピオイド鎮痛薬が使われることもあります」
-ステロイド薬は使わないのか。
「効果がないという研究があり、使わない医師が多いですが、痛みの強い局所に注射すると改善する患者もいます。いずれにしても全員に効果がある薬はなく、効果がない場合はさまざまな種類を試すことになります。副作用にも注意が必要です」
-病気を見分けるのに注意を要するという脊椎関節炎の治療も同様か。
「第一段階で使うのはNSAIDで同じですが、第二段階以後は進行度合いに応じてステロイド薬や免疫調節剤、メトトレキサート、生物学的製剤などを使い、関節リウマチに近い治療を行うと効果が出るケースが多いです」
-線維筋痛症に対する薬以外の治療は。
「ウオーキングや体操、水泳、エアロビクスなどの運動療法や、指圧、マッサージ、はり・きゅうなどが有効な場合があります。いずれも個人差があります。運動療法は自分で積極的に進めることが効果的で、脳をリラックスさせることと関係があるのかもしれません。痛みが強い時期などにはしない方がいいこともあるので、医師などに相談して下さい」
-心療内科的な治療も必要か。
「偏った考えを直し不安を和らげる認知行動療法が、欧米では盛んです。国内で実施している施設は少数ですが、線維筋痛症の知識がある医師が取り組むのがよいと言われています」
「イライラ、不安など心理的な葛藤(かっとう)が痛みを強める場合もあるので、1日の生活を見直すなどして、リラックスした日常を過ごすよう心掛けて下さい。将来に希望を持ってほしいと思います。私も今後、この病気についての医療関係者の理解が進むことを期待しています」
【写真説明1】線維筋痛症の症状
【写真説明2】線維筋痛症の主な治療
=2009/05/04付 西日本新聞朝刊=
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