●40―50代で発症も
福岡市の会社員男性(45)は昨年10月、SADと診断された。もともと緊張しやすい性格で、人前でのスピーチは得意ではなかった。それでも、朝礼など、複数の前でも大して緊張することはなかったという。
だが、約5年前に部下が増え、仕事の責任も重くなったころから、症状がでるようになった。上司や役員と会う場面では、一対一でも、手から汗が滴り落ちるほどに緊張し、「会議では突然、ダムが崩れたかのように頭が真っ白になって何をしゃべっているか分からなくなるようになった」という。
畠山医師は「(SADは)、思春期に人前で恥ずかしい思いをしたことが引き金になることが多いが、40―50代で責任ある立場となり、発症する場合もある」と説明する。
●日常生活に支障
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人前での自己紹介や初対面の人との会話、偉い人との面会―といった場合、誰でも緊張や不安を感じるもの。動悸(どうき)がしたり、手足が震えたりする状態は、正常な反応で病気ではない。
だが、SADの場合、この不安や恐怖が過度になり、人前での行動が出来なくなる。「失敗したらどうしよう」「相手が自分をどう思っているのか」といった考えがエスカレートし、異常な緊張を自覚してしまう。
原因は、脳内の神経伝達物質「セロトニン」のバランスが崩れ、神経が過敏な状態になることとされる。不安な場面を避けるため、それまで活発だった人が引きこもってしまい、中には、外出を避けて、日常生活に支障を来すこともあるという。また、腹痛や吐き気を訴える患者もいる。
●7人に1人とも
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有吉医師によると最近、SADで同クリニックを訪れる患者が増えているという。2005年10月に、治療薬である「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」(SSRI)が保険適用となって、広く知られるようになったのが一因という。「それまで単なる内気やあがり症など、性格の問題と考えられていたSADが治る病気と分かったことで、治療に踏み切る人が増えたのではないか」と分析している。
一方で、10―40代では、7人に1人がSADともいわれており、決して珍しい病気ではない。「ニートや引きこもりが増えている背景にSADある、といった指摘もある。病院に行くのをためらう人も多いのではないか」と有吉医師は話す。うつ病やアルコール依存症にもつながりやすいので、本人だけでなく、周囲も注意が必要だ。
●治療は半年―1年
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診断は、精神科や心療内科を訪れ、米国精神医学会の診断基準(DSM―Ⅳ)を基に作成された問診票「M・I・N・I」や「LSAS―J」と呼ばれる評価項目で重症度を評価する。
治療は、服薬治療と並行して、カウンセラーによる「認知行動療法」が主流になっている。この療法は、日常的によくある社交場面を想定し、恐怖症状が出たときの対処法を学ぶ。恐怖を感じる状況に症状が治まるまで居続ける「暴露療法」なども行われる。
治療期間はおおむね半年から1年。緊張が完全になくなるわけではないが、不安や恐怖は緩和するという。
また、治療薬SSRIの服用では、吐き気や眠気などの副作用が治療初期にみられる場合があるが「服用を止めず、医師と相談しながら治療を続けることが重要」と畠山医師は話している。
(写真=上から有吉祐院長、畠山淳子院長)
(図=行動の一例)
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